バレエ

『白鳥の湖』の名脇役

3月30日にボリス・アキーモフの芸術活動50周年を記念したコンサートがボリショイ劇場で予定されています。

左:アキーモフ 右:グリゴリーヴィチ

左:アキーモフ 右:グリゴリーヴィチ

彼はソ連時代、上の写真の右側ユーリー・グリゴローヴィチ芸術監督率いるボリショイ劇場の全盛期を飾った代表的なダンサーです。
簡単な略歴を・・・

1965年ボリショイバレエ学校を卒業後ボリショイ劇場へ入団。1979年にギチス(教授法の大学)も卒業。
1980ー88年にギチスでも教師としてクラスを持ち、1989年にボリショイ劇場でバレエ・マスターとなる。
その指導はロシアに留まらずロイヤルバレエ団やスカラ座、またドイツ等ヨーロッパの各地でも活躍。ロイヤルバレエ学校でも教える経験を持つ。
2000ー3年、ボリショイ劇場芸術監督
2001ー2005年、ボリショイバレエ学校の男子クラスとドゥエット(男女組んで踊るクラス担当)
2001ー2002年同学校の学校長を務め2002ー2005年は芸術監督となる
2013年よりボリショイ劇場でアドバイザーのような形でクラスやリハーサルを担当している

・・・とどっぷりバレエ漬けだったのがお分かりだと思います。

アキーモフ先生は(バレエ学校をうろうろしていたのを覚えているので、何となく私の中では先生という印象があります)ナタリア・ベスメルトノワ全盛期に活躍した(特に1960ー70年代)いつもその舞台を引き締める役として存在感のあるダンサーというイメージ。

学校で教えている様子ですね

学校での様子

現役時代はスパルタクスのクラッススや白鳥の湖の王子も踊っていますが、特筆するべきは彼のロットバルトだと思います。
小さい写真ですが見付けました!この眼力凄すぎます。

ぎょろり

キャラクターダンスを得意とし、ロシアの民族舞踊を元にした小作品を振り付けているのこともあり、いわゆるキャラクターの強い役柄は大得意でした。そんな彼が演じるロットバルトの存在感は今でも右に出る者はいないのではないでしょうか。古典作品は特に王子やお姫様が主役なのは勿論ですが、バレエはそれだけではありません。《額縁あってこそはじめて絵画は引き立つ》のと一緒で、コールドや脇役の活躍あってこそ、舞台はより生き生きし観客を魅了します。こういった舞台全体を引き締める名脇役の存在は舞台を盛り上げる上でやはりなくてはならない存在ですね。そういうダンサーの代表格と言えるかなと思います。自分だけが目立とうとすると全体のバランスを崩してしまいますが、彼は目立ちながらも自分の立ち位置を守って、配慮豊かな踊りをしていたダンサーです。昔はそう言った名ダンサーが沢山いました。だからこそ、ボリショイの舞台はいつも華やかでダイナミックで、世界中で愛されたのだと思います。主役だけでない、全体の総合力がとてもパワフルなんですね。

Фото Гаралея(フォト・ギャラリー)というページを見付けました。ナロードニー・アルチスト(国民芸術家)の称号を貰ったアーチスト達の写真が掲載されています。このページのАкимов Борисをクリックすると、現役時代の迫力ある写真が見られます

プロの舞台は技術は出来ていて当たり前。観客はダンサーから溢れ出る情緒や表現、そして人間性に惹き付けられるんですね。やはり踊りはその人の人柄が出ます。

スパルタクスのクラッスス

『スパルタクス』よりクラッスス

そして彼の指導は自身が踊っていたことから、動きの的確さ、見栄え、サポートの大切さなど「気付かせる」やり方でクラス(レッスン)を出します。特にプロのダンサーのクラスにおいては常に明るく元気な様子ですが、無駄なことを言わず個々が自分に必要なものを気付かせるクラスを出すと聞いています。そして自身が動いてみせることで、勘の良いダンサーは「ここ」という所に気がつくんですね。芸は盗むものですから。

こちらの映像は振付:ユーリー・グリゴローヴィチ/指揮:アリギス・ジュライテス
ナタ−リア・ベスメルトノワ/アレクサンドル・バガチリェフによる《白鳥の湖》です。
現在のボリショイ劇場で上演されている振付はここからグリゴロ−ヴィチによって短縮されたものですが、その短縮される前の長いバージョンです。不朽の名作とは正にこういう作品の事を指すと思います。
http://yandex.ru/video/search?source=tableau_images&p=1&filmId=ATHmlQ1b0Cw&text=борис%20акимов%20большой%20театр

現代では足を思い切り上げたりやたら長くキープしたり、ぐるぐる回転したりというような技術に重きを置きがちな傾向があります。しかしこの頃のダンサー達は、一見雑なように見える中に気品と、今のダンサーにはない細やかな足の動かし方をしています。そして何よりも情緒性があり気品に溢れています。足がどのくらい上がるかとかターン・アウト(外開き)がどこまで開くかとか、そういうことではなく、バレエというのが「魅せる芸術」であると言うことを体現していた時代だったのではないでしょうか。

そしてこちらの映像の一番始めのロットバルトの3幕のシーン。是非ご覧下さい。

「ボリショイ劇場は私の第2の家だ」と言っていますが..。

ソ連時代のボリショイ劇場を華やかに飾った名舞踊家。現在はダンサーを育て自身の経験を伝える役割を担っているわけですが、まだまだ元気で活躍して欲しいなと思います。

シェミャーキンの世界『くるみ割り人形』@マリンスキー劇場

先日サンクトへ行ってきましたが、今回の最大の目的はマリンスキー劇場でミハイル・シェミャーキン演出/美術、キリル・シモノフ改訂/振付の『くるみ割り人形』を観ることでした。

シュミャーキン

ミハイル・シェミャーキン

独特な色遣いと世界観

独特な色遣いと世界観

2007年/ゲルギエフ指揮@マリンスキー劇場の映像です。こちらのサイトで観られます
https://my.mail.ru/list/kapa/video/181/601.html
*この映像でドロッセルマイヤーを演じているアダセンスキーは名演。実際にこの舞台を観ている友人は彼の為にある舞台だと言っていました。生の舞台を観たなんて羨ましい限り!

 

ずっと観たいと思っていたので念願叶いました。とにかく舞台も装置も衣装も何もかも、徹底的にシェミャーキン・ワールド。
グロテスクだの変わっているだのマリンスキーらしくない等と評価は色々聞いてきましたが、正直、私はこれはありだと思いました。マリンスキー劇場のダンサーもだんだんと良い意味でも悪い意味でも変わってきていますし、いわゆる昔からあるワイノーネン版の『くるみ割り人形』も上演を続けているのなら双方ともレパートリーとして持っていても良いのではないかと。しかしこれだけが『くるみ割り人形』です、となると話は別だと思いますが。

この『くるみ割り人形』は子どもは大人の犠牲者であるとか独裁政治の暗い過去だとか、色々とブラックな側面を反映しているようですが、キリル・シモノフの解釈とシェミャーキンの世界観がマッチしたのだとは思います。そうして化学反応が起こり新しい作品が生み出されるということに関しては、これはきっと成功なのだと思います。ちなみにキリル・シモノフはフィギアスケートのプルシェンコの振付もしていますね。
ホフマン原作と思うと、こういうブラックな演出になるのもなんとなく納得します。

良く考えてみると、古典作品と言われるチャイコフスキーの『白鳥の湖』『くるみ割り人形』『眠れる森の美女』をはじめ、『ロミオとジュリエット』『ジゼル』等々、クラシック・バレエの人気は落ちてはいませんが、その古典作品のリメイクというか、改訂版や違う解釈による振付を試みる事は世界中を見ても今に始まったことではありません。

・・・それにしても
舞台セットは勿論、衣装も何もかもシェミャーキンの世界観満載・・・本当に独特でした。
こちらシェミャーキンについての記事↓
http://jp.rbth.com/multimedia/pictures/2013/11/29/46223

 

さて、この舞台を観てしみじみ感じたのは、やはり時間が経つと言うことは変化しているということだということ。

ボリショイ劇場で起こっている現状にも繋がります。またこれは次回にここに書きたいと思います。

ちょっとぼやけていますが写真を数枚。

雪の精。真っ黒の衣装にピンポン球の様な白い玉が沢山付いていて斬新でした

雪の精。真っ黒の衣装にピンポン球の様な白い玉が沢山付いていて斬新でした。終わった後、頭飾りを取ってパタパタ仰ぎながら腰に手を当てて舞台袖に入っていく雪の精がいてこれまた笑えました。

アラビアの踊りは蛇そのものの踊り。イリーナ・プロコフィエヴァでした。しゅっとした細身のいかにもマリンスキーっぽいダンサーです。ピッタリでした。

アラビアの踊りは蛇そのものの踊り。イリーナ・プロコフィエヴァでした。しゅっとした細身のいかにもマリンスキーっぽいダンサーです。この踊りは長くてゆっくりな曲で途中で飽きてしまうことも多いのですが、彼女は1人で最後まで魅せてくれました

主役のお二人。エレナ・エフセーエヴァとアレクセイ・ティマフェーエフ。二人とも踊りはちゃんとこなしていました。しかしアレクセイはちょっとジャンプが固かったです

主役のお二人。エレナ・エフセーエヴァアレクセイ・ティマフェーエフ。フレックスの多い振付でクラシックではないため実際踊るのは大変でしょうが、2人とも楽しそうでした。しかしアレクセイはちょっとジャンプが固かったです

 

シュミャーキンも登場!黒ずくめの不思議な存在感でした。ねずみの仮面とイメージがぴったり

シェミャーキンも登場!黒ずくめの不思議な存在感でした。ねずみの仮面とイメージがぴったり

シュミャーキンとねずみ

シェミャーキンとねずみ

そしてとても印象的だったのは・・・

今までこれほど目で追うのが楽しかった花のワルツはなかったです。コールドのフォーメーションの変化、独特な色遣いの衣装と配色、おうどう色・緑・青・紫色の4人のソリストと、その4色から派生した色の衣装で、とにかく動き回ります。花のワルツと言えば息つく間もなく周りのコールドも動き続けるイメージですが、ここの演出はほんとにもうずっとくるくると動き回り、色の華やかさを最大限に生かした振付と言えるのではないかなと思います。とても美しかったです。

花のワルツ。左のおうどう色の衣装は日本人ダンサー石井久美子さん

花のワルツ。ソリスト4人の左、おうどう色の衣装は日本人ダンサー石井久美子さん

機会があったら是非これは生の舞台で観て頂きたい。舞台上にある絵や装置のことを一緒に行った仲間とあれこれ話し合うのも楽しいですし、とにかく話題が尽きません。色の使い方はとにかく必見!